SRID懇談会 2009年7月22日
日時: 2009年7月22日(木)午後6時30分〜8時
テーマ: 『JICAの進める一村一品運動』
講師: JICAアフリカ部南部アフリカ第一課長 下田透氏
場所: UNIDO東京事務所会議室
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テーマ 「JICAの進める一村一品運動」
出席者 会員 大戸、萩原、鈴井、高瀬、三上(良)、倉又、今津、太田、山下(文責)
学生会員 新谷、井上 非会員 山本(ユニコ) 計12名
講演概要:
一村一品運動の原点
・ 日本政府が促進している一村一品運動は、当時の二階経産大臣が途上国支援を目的に、JETROを中心にWTOのFair Trade対策を推進する中で始まった。お台場のフェアー会場でアフリカの全国に声をかけて一大イベントを開催し、大成功を納めた。ぜひアフリカで実施してほしいという在京大使館の強い希望があり、2年前のTICAD4を機にJICAも本格的にアフリカにおける展開を決めた。
・ これとは別に、マラウィの大統領が日本に来て自ら大分県の一村一品を見学し、JICAに技術協力を頼んだ。現在、マラウィを担当している私がアフリカにおける一村一品運動を調整することになった。現在はサブサハラでJICA事務所がある12カ国を対象に、専門家派遣や技術協力プロジェクトなどの支援を行っている。
・ 一村一品は大分県の平松前知事が始めた活動である。大分県一村一品国際交流センターの理事長として健在である。地域の誇りとなるものを掘り起こし、世界に通用するものを育てる、というのが同氏の基本理念である。一村一品というと「一つの村で一つの物しか作ってはいけない」と勘違いする人がいるが、「誇りになるものを一品でも作る」という意味で、決してモノカルチャーではない。コミュニティの活性化、人づくりがあって初めて地域振興ができるという信念に基づいている。
・ JICAの関与はあまりないが、タイでも一村一品運動が成功している。ガーナではJICAとJETROと連携してシアバターを日本で販売することになった。日本では年に4回ある海外青年協力隊の訓練のコマとして一村一品運動の講義を行っている。希望者が講義を受けるのだが、その後必ずもっと話を聞きたいという人が4〜5人でてくる。
一村一品の3つの精神
・ 平松氏の伝記を読むと、大分県は中央の大マーケットから遠いため、身の丈にあった村おこしが必要と考えて、知事自らが率先して一村一品運動の紹介に努めた。麦焼酎を「下町のナポレオン」というネーミングで料亭に紹介したところ、全国的にヒットしたという実例もある。新しいものを作るのではなく、既存のシステムを活用する。問題は活用できる人をどう探すかにある。
・ 一村一品の基本となる3つの精神の第1は、ローカルにしてグローバル、地域に根ざしていて視野はグローバル、という視点を持つことである。最近「グローカル」という言葉ができている。内なる資源を活用して、外に対して通用するものを作るということ。
・ 第2の精神は、Self-reliance and creativityである。行政主導ではなく、自分達が中心となって独創的な開発をする。現地でできることを考える。まねをしていては何もできない。「カネがあるからやる」という補助金行政ではだめ。やる気のある人にカネをつける。
・ 例えば、大分県のドンコは全国シェア34%。カボスはジュースや加工品にする。関アジ、関サバは尻尾にシールを貼ることでブランド化した。工夫次第で有名になる。大山町の花ガルテンは野菜を売る隣にレストランを設置し、少量しか採れないので外に出せない地元の産品を料理することで発想を変えた。
・ 湯布院も裏別府として寂れていたが、自然や雰囲気を大切にし、自然をこわさない街づくりをしたことで、今や湯布院が別府を抜くほど知名度が上がった。農家に泊まるグリーンツーリズムや立命館アジア太平洋大学(APU: 半数はアジアの留学生)も一村一品運動の一環である。一村一品は必ずしも産品とは限らない。
・ 第3の精神は人づくりである。平松氏の21世紀塾には世界各国から留学生が来ている。
・ JICAとして一村一品をどう活用するか。途上国を支援しても外で売れるものがすぐにできるわけではない。地域の活性化に役立てることが主眼である。手法としてはまず一村一品運動の事務局を国に作り、地域からプロポーザルを出してもらう。協力隊による村落開発もある。おんぶに抱っこ状態では、JICAがいなくなったらどうするか、という問題があるため、先方の国の自主性を尊重している。
アフリカの事例
・ マラウィとガーナの事例を紹介したい。マラウィでは前大統領のイニシアティブで一村一品が始まった。マラウィから人を大分県に招聘し、日本から専門家や協力隊員を送っている。世銀やILOが手掛けているマイクロクレジットとの連携も検討している。プロポーザルの評価指標として、コミュニティが運動の中心になっているか、地産地消か、組織が健全か、などがある。年長者が出てくると議論が活発でなくなるので、リーダーの選考には注意が必要。銀行口座の開設やビジネスプランの支援もある。落ちたプロポーザルへのアドバイスも行っている。
・ マラウイでは技術協力の成果として、色々な産品が出てきた。JICAが供与した精米機で精米を出荷する。バオバブのジャムはラベリングを協力隊がやり、首都のアンテナショップで販売している。ピーナッツオイルは地元で評判となっている。酸化防止剤なしの100%ピーナッツであるため、近隣の富裕層も買いに来る。マラウィ農科大学がキノコ菌を住民に配り、大学が成長したキノコを買い取る事業もある。
・ ガーナでは、シアバターをヨーロッパに輸出しているNGOを支援した。シアバターは保湿剤として日本でも人気がある。表参道に「生活の木」というアンテナショップがあるが、そこでも販売されている。
・ 小額でも現金が村に落ちると生活が変わる。特に、女性に現金収入を与えると教育やコミュニティ開発につながる。平松氏が一村一品親善大使としてマラウィを訪れたとき、自分は女性を支援するために一村一品運動を始めたという話をした。女性に現金収入の道を開くことこそ一村一品運動の究極の目的である
タイの事例など
・ タイのタクシン前首相は北部の農民支援のため一村一品を取り入れて、One Tambon One Product (OTOP)という運動を展開した。各県で品評会を行い、優良品は国の品評会に出品できる。そこで認定された星のマークをつけてガイドブックに載せるというシステムを考案した。コガネムシの羽を使ったペンダントは4つ星がついた。
・ 日本の「彩り」事業では、農家の女性が落ち葉を活用して高級料亭に卸すことを始めた。これがヒットして落ち葉が年商1億円以上の商品になった。JICAのホームページから紹介のビデオを見ることができる。
質疑応答:
三上 堀内氏がケニア大使の時に、外から援助を与えてはだめという考え方で、ストリート・チルドレンの自立支援をした。フェア・トレードは日本のNGOが支援して以前からやっている。「ローカルでグローバル」とはできた製品が世界的に通用することを目指すのか。コミュニティを作る上では「地産地消」が重要である。日本でも地域振興のためにローカル・カレンシーが流通している。
大戸 私は関アジ、関サバの産地である佐賀関の出身だが、一村一品が成功するためにはある程度のキャッシュフローが必要であるように思う。関アジ、関サバは、豊後水道を泳ぐ大型のアジ、サバを潮先で釣り上げ、築地に卸せるようになったことが成功の理由である。佐賀関は、日本鉱業の精錬所が縮小し、農業人口も減った。海では漁業権をとるか工業をとるかの競争になり、結局漁業が残り、現在の関アジ、関サバにつながった。焼酎の「いいちこ」は、高級ブランドの焼酎としてのマーケティングがうまくいき、成功した。私が中学生の頃の人口は2万人、現在は1万人で佐賀関の農業、漁業人口は減ったままである。一村一品商品の買い手は、農業に頼らない都市の消費者であり、農村に住む人々が対象ではない。アフリカも現金収入のある消費者層が存在しないとうまくいかないのではないだろうか。
高瀬 アフリカでは12カ国、アジアではバングラ、ネパールなどで一村一品を展開しているが、成功例はタイに留まっている。これから伸びるとすれば、世銀が失敗したマイクロファイナンスを一村一品に変えることではないか。
下田 マイクロファイナンスと一村一品の活動には類似点が多いが、違いはすでに紹介した3つの精神にある。
萩原 UNIDOも一村一品を意識しており、マラウィに人を送っている。ブランド化する発想はすごい。大山町は「ウメ、クリを植えてハワイへ行こう」をキャッチフレーズにしているが、UNIDOは「バナナで儲けて日本へ行こう」というキャッチフレーズを考えている。バナナの茎のブランド化である。
下田 バオバブのジュースやジャムはマラウィで食べるとおいしい。イギリスのスコーンのような甘めのパンに合う。日本に入れるためには品質管理とまとまった数がいる。現金収入事業を担当している協力隊員が冊子を作っている。JETROに依頼して、通販大手に見てもらったら、関心は示したが日本に入るためには品質が一定で、ある程度の規模数が製造されなければだめだと言われた。一方、Fair
Trade商品とすれば、その価値はストーリー性にあり、少ない数でも商売が可能。
倉又 タイに3年間シニアボランティアで行ってきた。タイの事例を色々見ている。以前、王様がカネを出して商品開発をやらせるロイヤル・プロジェクトがあった。王様の商品としていきなり全国的なブランドになる。品質は必ずしも高くないが売れ行きは保証される。工芸品や食品加工が得意である。もともと技術があるので一村一品プロジェクトの下地になっている。タクシンの一村一品は品質が高く、輸出額が大きい。
下田 JICA研究所でマラウィとタイの比較研究をやっている。
三上 タクシンの問題は王室との抗争である。
鈴井 地域開発とコミュニティ開発は違う。コミュニティ開発の場合はソフトが中心になる。ここがしっかりしていれば、バックグランドをしっかりつかんだ地域開発ができる。セネガルのデフィは非常によい。好きな人が集まって教育を受け、その技術を村に持ち帰るシステムである。捨てるものを有効利用している。セネガルのエスカルゴはダカール沖で取れるサザエである。ミシュラJICAが開発して大成功を納めた。湿地帯で取れるイブラヒマはタニシの親方だが、食べるとうまい。上にキャップがあり、薄いツメを螺鈿に使う。サウジアラビアに輸出している。捨てるものを有効に使えばいい値段で売れる。
倉又 タイには象糞紙がある。象に絵を描かせて高く売っている。地雷を踏んで足をなくした象のリハビリセンターでその糞を利用している。
萩原 象糞紙はタンザニアにもあり、日本のNGOが輸入している。平松氏が2007年に出版した「グローカル企業家ネットワーク」という本で1.5次産業を提唱している。1次産業をやっている人が2次産業をやる。1x2x3で6次産業というのもある。
下田 APUで一村一品の講座を持っている。一村一品運動は欧米にない日本の知恵である。
倉又 経産省がやっているBottom of Pyramid (BOP)とどう重なるのか。民間連携室の大垣氏から補正予算がついたときいている。
萩原 懇談会で住友化学にオリセット蚊帳の話をしてもらってはどうか。
高瀬 蚊帳にはプラスとマイナスの正反対の意見があり、池田氏はあれほど危険なものはないと言っている。外務省批判につながることをODAの俎上に乗せるのはどうか。民間がやっているのにどこが悪いかを極めないで批判するのは危ない。
(以上)
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