SRID Newsletter No.405-2 August 2009
国内外の開発コンサルタントの次世代人材育成の難しさ 太田 陽子 開発コンサルタントは技術協力、無償・有償資金協力を通じてコンサルティング業務を提供するばかりではなく、事業地の技術者の技術向上に貢献するという役割を果たしているというのは周知の事実だが、国内同業社と海外のローカルコンサルタントと仕事をする中で、両者理由は異なるが民間の若手の育成を阻害する制度的な土壌がある事がわかってきた。 開発途上国内のコンサルタント (注) タイやインドネシアのようにODAの援助の経験が多い国では現地のコンサルタント会社・コンサルティングというビジネスが成り立っているのだが、「コンサルタント」という市場が育っていない国では、の現地技術者が、実施機関側の天下り先となっているケースが多々見られる状況にある。 大規模インフラ事業になればなるほど、業務の多くをローカルコンサルタントに任せる事になり、事業の成功に大きく関わってくるのだが、多くの国では開発コンサルティング会社というと「人材派遣業者」になっている。そこで誰を連れてくるかと言うと、客先である政府機関のOBもしくは縁故者である場合が多い。そうすることにより、受注の可能性を上げる事が出来るのである。 政府機関側も、旧JBICのガイドラインに基づき、Terms of Reference を作成する際に、現地の技術者の評価基準を設定することが出来る。コンサルタント市場の小さい国では、評価基準を厳しくすること自ずと候補になりうる人間を誘導することが出来る。例えば、「関連分野修士号保持者が望ましく、類似業務経歴が15年以上」とすると、「関連分野修士号」の項目で特殊技術が必要なポジションの場合は海外でその修士号を取得している人間のみが対象にすることができ、同様に業務経歴で絞る事が出来る。大規模なプラント、発電所、国際空港等では、しばしば民間に市場がないため人材がいない事が多い。 よって民間コンサルティング会社に若手を育てるメカニズムや、社内にノウハウを蓄積して会社としての体力をつけるという土壌が育ちにくい状況になっている。 2.国内の開発コンサルタント (財)海外コンサルティング協会のHPでは、開発コンサルタント業界の文系と理系の新卒採用状況を以下のように説明している。 「ただ、一部の大手企業を除き、コンサルタント企業の多くは中小企業であり、新卒を大量に採用して社内で育てる余裕がないところがほとんど。そのため、理系の新卒であってもある程度、即戦力として対応できる人材が求められており、英語力など何らかの付加価値があると断然有利だ。」 「学部卒でいきなり社会経済系のコンサルタントとして採用されるケースは希であり、一般的には留学などで学位を取得するとともに、英語力を研くこと(併せてフランス語、スペイン語などの第2言語を取得しておくと有利)、経済社会関連分野で実務経験を積むことが重要である。」 先日、開発コンサルタント業界の若手が集まる会に参加し、一部の大手企業と呼ばれる企業の海外事業部員の新卒採用状況を聞いてみたところ、1-3人との回答を貰った。ちなみに当社も一昨年1名、昨年・今年2名という状況である。上記の社内で育てる余裕がない所がほとんど、ではなく全てという方が適切だろうという印象である。 また、経済社会関連分野で実務経験を積む事が重要である、と書かれているが、日本に市場がある政治・経済・金融の場合比較的間口が広がっているが、途上国の住民組織・平和構築・Human Trafficking、難民等の専門家の場合、日本国内において実務経験を積む場が限られている。NGOや、外務省のJPOやJICAのジュニア専門員も近年募集対象年齢の上限を引き上げ、関連の業務経験が求められるようになり、新卒や第二新卒世代を受け入れる入口がどんどん狭くなっているような印象がある。 コンサルタントのキャリア開始の年齢の高齢化が進むことは、前ページに記したようにコンサルタントとしての評価基準が旧JBIC、ADB、世銀などの国際機関に共通の関連業務経歴の年数が大きなウェイトを占める構造では、国内同士の競争ではそれほど差が出ないが、他国と比べて特に若年層で年齢に見合ったキャリアを形成できず、国際的な競争力が保てていないように思える。 ADBでは技術協力、ローン案件に日本企業の応札・受注が少ないため、日本のコンサルタント向けに毎年Business Opportunity Seminar を開催している。 本年度のセミナーではADB側からの質問で、何故日本のコンサルタントはADBで仕事をして頂けないのかという質問に対して、日本のコンサルタントからは仕事をしたいが受注出来ない(つまり勝てない)、という回答が出るなど、現場レベルでの認識や需要・供給にギャップが出来ているように思える。 現場力を高めることも国際協力業界において、日本のプレゼンスを高めることになると思うので、これからこの業界を目指す学生に、「この業界は厳しいからとりあえず別の民間企業に就職して経歴を積んだ方がいい」と言わなくても良いように、開発コンサルタント企業が積極的に若手を雇うことにインセンティブが持てる入札方式の工夫や、大卒後早い時期の学生の雇用の受け皿をJICAに作ってもらうなど、業界として活力が出るようなメカニズムが出来ることを望む。 以上 (注)前年度資料 http://www.adb.org/JRO/documents/BOS-2007-annaijyo.pdf |